これは、「XR創作大賞」が面白そうだったので書いてみたものです。
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203X年。
VRHMDが洗練され、平成~令和初期の時代には「眼鏡」と呼ばれていた形に落ち着いてから早5年。今や「眼鏡」といえばこの「XRレンズ」を指すようになった。様々なデバイスと合併し、総称は「スマートレンズ」、昔は「レンズ」と呼ばれていた。が、「いやこれ眼鏡じゃん」となってからは眼鏡と呼ぶ人も増えた。
目の動きを追うシステムが入っており、PCのマウスジェスチャのように目線の動きを登録することができる。これによって視界に現在時刻や天気、現在のバイタルチェックからはたまた電車の運行情報まで表示できる。
旧型機ではWEBブラウジングもできたのだが、歩きながら使う人が急増し事故が多発。今は歩きながらのWEBブラウザの使用は禁止されているし、新しく製造されるものにはこの機能は搭載しないことが国際的に定められた。
だが、禁止されているとは言っても外からは分からない。今も旧型機はネットで高値で販売されている。
最近のトレンドは、無人店舗の新しい動きだ。
コンビニや一部のスーパーは無人レジをいち早く取り入れ、2,3年前までは本当に誰もいない店舗がそこかしこに存在していた。人間のスタッフは一日の営業が終わる頃に一人だけ来て、レジのお金を回収し、店舗を掃除して帰る。このレジのお金の回収も、どんどん不要になっているところだ。ここは現金の力が強い日本ならではで、諸外国ではほとんど必要のない作業になっているらしい。それでも、もう数年で日本も同じようになると言われている。
しかし、「人の接客を受けたい」という人も根強く、逆に一部の業種では「敢えて」人間の接客を受けられることを売りにするようにもなった。
今更人間の店員を雇っても利益が厳しいことになる、と踏んだコンビニの動きは速かった。この時代、もはや誰もが着用している「眼鏡」に目を付けたのだ。眼鏡だけに。
眼鏡に搭載されたAR機能。これを応用して、コンビニは「バーチャルスタッフ」を用意するようになった。眼鏡を通したときのみ視認できる、実在しないスタッフだ。コンビニはまずオフィシャルなデザインを制作、普通の人間に近いバーチャルスタッフを採用した。
眼鏡を通してそのスタッフの映像を視認し、眼鏡に搭載
しかし、不気味の谷問題を乗り越えることはなかなかに難しく、試みこそ評価されたがバーチャルスタッフの利用率は低迷。この企画は失敗に終わるかと思われた。しかし今度はデフォルメを強くしたアニメーションキャラクタチックなデザインで再挑戦。清潔さと親しみやすさとを意識したデザインは好評を博し、一部のオタク層からブームが始まり、一般層にも広く受け入れられた。
更に特定のゲームやアニメ作品などとコラボを実施。
「期間限定であのアニメのキャラが接客!」と銘打ち、顧客層を大きく拡大した。
更にその裏では、実在の人物を3Dスキャンすることで、不気味の谷をかなり軽減したモデルを制作。「俳優の●●が接客」「モデルの●●が接客」という形でリアルな人間の造形のバーチャルスタッフも増加。アニメや俳優側は、バーチャルスタッフと共に店舗内装(バーチャル上)などにも宣伝を貼りつけることで広報、認知されにくかった層へのPRを成功。昨年には某ファミリーレストランで受付を行っていたバーチャルスタッフのモデルとなった若い俳優が、「このモデル誰?」とSNS話題になり、出演したドラマが大成功を収めた。
「好きなキャラクターや憧れの人物が見ている」という環境がそうさせたのか、万引きの発生数が激減したという店舗も観測されている。
一方で、問題点もある。
一部の「声の大きい厄介オタク」はどの業界にもおり、「●●はこんなところで働かない」などと騒ぎ立ててネットで大騒ぎするなどの事例が発生し、その都度対応に追われるかわいそうな案件が多発。最近は「原作者監修」「本人監修」と付けることでこの手の声が激減することがわかり、殆どの場合にこういった監修がつけられるようになった。
バーチャルスタッフと座標が重なっている一般客に絡むといったいざこざも何度となく届けられており、バーチャルスタッフの行動AIの中に客の座標を避けるアルゴリズムを組み込んでいる企業も増えている。
無人レジの普及に伴って減った雇用に対する不満は、今最も大きい社会問題の一つと言える。これまでは「無人レジをやめろ」といった形で広がっていたのだが、バーチャルスタッフによって曲がりなりにも「八つ当たりの相手」を見つけてしまい、より攻撃性が増した、という統計結果がある。
また、実在の俳優などをバーチャルスタッフとして使うことの多い客(客は店舗ごとに自分を接客するスタッフを選択できる)に顕著だが、現実とバーチャルの境界の認識がこれまで以上にあいまいになる事例も。
俳優スタッフを実在と信じこみ「あの人は自分を好きに違いない、だってこっちを見ているから」という妄想染みた発言もあるという。
XRという技術は急速に普及した。面白いからだ。しかし、それに関する知識を、市民は持ち合わせていない。スマートフォンは「眼鏡」の普及に伴い若干下火になっているが、登場から20年ほどが経過してなおその基本的な構造の話が教育の場に上がることすらない。XRの分野に至っては、そこに映るものは実在のものとは異なるという当たり前を、これがあって当たり前の世代は認識できていないのだ。
いずれ、「知らない人についていってはいけません」「人を騙したり傷つけたりしてはいけません」といった話と同列に、「眼鏡越しでしか存在できないものはそうと認識しましょう」と言われる日が来るだろう。